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第41話
第41話
酒は百薬の長
昔から酒は百薬の長と言われてきた。仕事や人間関係などのストレスは生活習慣病の引き金になることがあるが、このストレスを解消するには3つの方法があると私は考えている。第1は酒を飲むこと。第2はレクリエーション、趣味を楽しむこと。第3は仕事に生き甲斐を求めること。その中で一番簡単に出来るのが酒を飲むことではないだろうか。
しかし、取引先を接待しながらお酒を飲む場合などは気を使うばかりで、酒の味を愉しむ余裕がなかったりする。また「飲みに行こうよ」とよく上役が部下を誘うこともあるだろうが、自分では大変理解がある上役だと思っていても、部下のほうは煙たくて堅苦しくてしょうがない、ご馳走にはなっても、かえってストレスが増える場合がある。
その逆に非常に親しい仲間同士で、しかもあまり財布に決定的な打撃を与えない程度のところで上役の悪口など言いながら飲んでいるのは、大いにストレスの解消になったりするものだ。忘年会シーズン、出来ることならストレスのない酒を愉しみたいところだ。
程よい量のアルコールは、体によいという話もあるらしい。すべてがアルコールのお陰とは言えないが、「酒は百薬の長」という言葉は実に言いえて妙である。
2005年もあとわずかとなり、年末の慌しさで飛ぶように一日一日が過ぎていく。私が余市にいた頃、クリスマスにはいつもリタおふくろが作ったクリスマスプディングが食卓に上った。プディングは硬くなった食パンを粉にしたものにドライフルーツやハーブ、ニッカのアップルブランデーなどを入れて蒸したもので、何ヶ月も前に作られる。長く置くことで熟成が進み、味わいに深みが増す。食べる前に再度蒸し、ブランデーをかけて火をつけると、綺麗な炎が上がり、とても良い香りが漂った。
良い香りといえば、政孝親父がアップルブランデーを飲んでいる時期があったが、アップルブランデーを飲んでいる人の息は何と良い香りがするものだろう、と思ったものだ。独特の酒臭さはなく、ブドウが原料のブランデーの香りとも違う。何か成分に秘密があるのだろうが、あの香りはとても快かった。
今でこそお正月は初詣に出かけるが、余市にいた頃、初詣に出かけたことはなかった。何しろあの豪雪である、お参りどころではない。リタおふくろが作ったおせち料理と雑煮を食べて過ごすくらいであった。竹鶴家の雑煮は鰹節と昆布で出汁をとったものに、家族が円満に丸く暮らせるように丸餅と、出世魚の鰤(ぶり)が入っていた。関東では一般的に四角い餅を、香川では白味噌仕立ての汁にあん餅を入れるというから、雑煮は、その土地の文化を反映しているある意味ユニークな料理といえるであろう。
三が日は工場の従業員が新年の挨拶にやって来て、ある程度の人数が集まると絨毯の上にござを敷いて麻雀三昧。そのとき、リタおふくろは、そば粉をこねて麺を打ち、従業員に振舞った。政孝親父はそば本来の風味を楽しめる黒い十割そばが好きだったので、リタおふくろが作るのは専ら十割そば。しかし小麦粉などの繋ぎを使わない十割そばはぶつぶつと切れやすいので、随分と作るのに苦労したに違いない。
その“力作”をあっという間に平らげ、皆はまた麻雀に熱中。すると、リタおふくろは「時間をかけてやっと作ったと思ったら、あっという間に召し上がってしまって。果たして美味しかったのかしら?」と複雑な表情をしていたものだ。しかし、よくも手間暇かけて作ったものである。おそらく政孝親父に連れられて行ったそば屋で見て覚えたのだろうが、リタおふくろが作る和食はどれも美味しかった。