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第75話

第75話

文明が発達しても人の手に勝るものはない

自宅にあるノートパソコンが不具合を起こしてしまい、修理に出そうかと思ったが、周囲の方々から「修理するより新しく買った方が間違いないし、値段も廉価なものがある」と言われた。まだパソコンが出始めた頃は大変高価で簡単に買い換えられるものではなかったが、既にパソコンも携帯電話並みに手軽に購入することが出来るようになった。十数年の間に随分と便利になったものである。

携帯電話は通話ばかりでなくメールやインターネット、ゲームやデジタルカメラ、テレビ機能が加わり、便利であると同時に複雑になってきている。しかし若者たちはそれらを実に器用に使いこなしているから驚きである。おそらくゲーム機感覚なのだろう。私は通話とメール、ときどき写真を撮るくらいで充分だ。

件のノートパソコンは7~8年前、量販店で購入したものであった。毎年600通くらいの年賀状を出すので「パソコンで宛名書きをしたらどうだろうか」と思い立って手に入れたのである。住所と名前の入力は当然ながら自分でやらなければならないので、キーボードで文字を入力していった。タイピングが我流のため少々時間はかかったが、お陰で手書きより随分効率が良くなった。

年賀状作成の他はインターネットやメールを利用するくらいで、頻繁に電源を入れることはなかった。これが不具合の理由かどうかは定かではないが、買い換えるとなるとデータを移し変えたり、回線を繋ぎなおしたりと手間がかかるものだ。どんなに便利なものでも最初は必ず人の手が必要であり、様々な設定を行わなければならない。少々面倒だが、利便性を考えると手間がかかるのは仕方ないかもしれない。

デジタル化する社会現象なのか、窓口がある銀行の数が減ったように思う。昔は通帳と印鑑を持ってお金を預けたり引き出したりしていたが、今は窓口が閉まってもキャッシュディスペンサーで用事が済むうえに、コンビニエンスストアに設置されたキャッシュディスペンサーは(取引 銀行によるが)24時間稼動している。

しかし私は、あの機械が苦手である。一度キャッシュディスペンサーで振込みをしようとしたとき、文字の入力はスムーズだったのだが数字が思うように入力出来ず、悪戦苦闘していたら画面が変わり「もう一度最初からやりなおしてください」の表示がされてしまった。憎たらしいと感じたものの、機械相手に腹を立てても仕方がない。年齢やスキルにあわせて機械のスピードを調整できないものかとも思ったが、やはり窓口で係員の人にお願いしたほうが間違いないと痛感したのである。

既に使用されなくなって久しいが、ファックスが普及する前にテレックスというものがあった。テレックスは通信回線で相手を呼びだし、通信文をタイプライタのキーで入力すると、そのテキストがパルス信号に変換されて送られ、受信側で印字されるものである。ニッカウヰスキーにテレックスの導入が始まったのは昭和40年1月12日で、まず本社と東京工場、北海道工場の3箇所に設置された。

●全国即時に繋がることが出来る。
●どの加入者とも通信出来る。
●記録が発着両者に残る。
●相手が不在でも通信出来る。
●欧米はじめ諸外国のテレックス加入者と直接通信出来る。
●迅速性、正確性、確実性に富む。

などの理由で当時は話題になったものだが、送ることが出来るのはカタカナと数字のみ。それでもファックスがない時分は重宝したものである。やがてファックスが登場し、文字や図などを自由に送ることが出来るようになったかと思ったら、今や電子メールで文字や画像、PDFなどが瞬時に送れる時代になった。あと10年後には一体どういう世の中になっているのであろうか。

さて、これは以前も書いたが、宮城峡蒸溜所はコンピューター制御の蒸溜所である。しかしながら従業員たちはコンピューター室にこもるわけではなく、自らの意思で現場に出て施設をチェックして回っている。「品質の高さを確実なものにするためには、自分たちの目で見て、香りを嗅いで現場をみなければならない」という彼らのウイスキーづくりへの姿勢は誇らしくさえある。どんなに文明が発達しても人の手に勝るものはないと私は思っている。