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第58話

第58話

ウイスキーに国籍は関係ない

今年4月、『竹鶴21年ピュアモルト』が「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」で世界最高賞である「アワード」を受賞。「ワールド・ベスト・ブレンデッドモルト」に選ばれた。『竹鶴21年ピュアモルト』は、ニッカが誇る蒸溜所で長期熟成を重ねたモルトウイスキーをヴァッティングしたもので、21年熟成ならではの深い味わいのピュアモルトウイスキーである。

2001年に『シングルカスク余市10年』が英国の「ウイスキーマガジン」主催によるウイスキーテイスティングで世界最高得点を獲得したということもあり、日本の、ニッカのウイスキーが世界的な支持を得たというのは大変喜ばしいことである。

2002年には、余市蒸溜所がスコットランド国外のウイスキーとしては初めて「SMWS=ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ」の認定蒸溜所になり、同年7月29日にエディンバラで開かれた発表会では記念の1号ボトルをいただき、政孝親父の足跡を辿ることもできた。

政孝親父が25歳のとき、リタおふくろとの新婚時代に3ヶ月間の実習をさせてもらったヘーゼルバーン蒸溜所跡が残るキャンベルタウンには、政孝親父が実習期間中の定宿としたホワイトハートホテルがある。そのマネージャーである Peter G・ Stogdale 氏は、以前、ニッカウヰスキーのスタッフが贈った『シングルモルト北海道12年』を開封せず、大事に持っていてくれた。

「(シングルモルト北海道12年は)もう日本では手に入らないものだ」と言うと、彼はボトルにサインして「これはあなたが持っていたほうが良いウイスキーです」と快く私に手渡してくれた。せっかくなので持ち帰ろうと思ったが、翌々日の晩、記念に一行で飲んでしまい、空瓶だけ持ち帰った。

現地の新聞の取材も受け、大変誇らしい気持ちになったが、その一方で「日本のウイスキーが、ウイスキーマガジン主催によるウイスキーテイスティングで高い評価を得たり、SMWSの認定蒸溜所に選ばれて、果たしてウイスキーの本場であるスコットランドの人たちはどう思うのだろうか?」という思いが過ぎった。思い切って現地の人にこの疑問を問うてみたが「良いものが良いのは当然です。ウイスキーに国籍は関係ありませんよ」と笑顔で返された。スコットランドという国、そして人々は何と大らかなのだろう、と感心したものである。

政孝親父が「ウイスキーと私」にこんなことを書いていた。

「スコットランド専売のウイスキーづくりをもちかえった男という意味で、イギリスは、あなたによい感情をもっていないのではないか、という質問に『冗談ではない、スコットランドでしかできないウイスキーを日本でつくり、日本はどんな片田舎でもウイスキーが飲まれている。日本はスコッチの大きな市場になっているからエリザベス女王には感謝されてもよい』という返事を軽い意味でいったことがあった。」

実に政孝親父らしい考え方である。

このエピソードからダイヤモンド社の“歴史をつくる人々”というシリーズで『ヒゲと勲章』という本が出たことがある。自分の姓を冠したウイスキーがWWAで世界最高賞「アワード」を受賞したと聞いたら、どんな感想を述べたであろうか。

さて、ブレンダー室で新たな商品のブレンドを行う場合、ブレンダー同士で香りや味わいについて話し合うと様々な発想が湧いてくる。完成したウイスキーには未だ名前が無く、ナンバーが記されているだけである。現場(ブレンダー室)の人間は最初から「12年物をつくろう」「21年物にしよう」という感覚ではなく、熟成の進み方や原酒の量なども考慮に入れる。単に“熟成年数の長いものほど品質がいい”というような単純なものではないので、樽から採ったサンプルのテイスティングをしっかりと行わなければならない。

『竹鶴21年ピュアモルト』が完成したとき、「価格が安過ぎるのではないか?」という声もあったが、あえて、価格の見直しは行わなかった。品質には確かな自信があるので、皆様に美味しく味わっていただければそれで良いのだと思っている。

ニッカウヰスキーのWEBサイトでは、『竹鶴12年ピュアモルト』を“芳醇の12年”、『竹鶴17年ピュアモルト』を“円熟の17年”、『竹鶴21年ピュアモルト』を“至高の21年”と表現しているが、皆様はどうお感じになるであろうか。