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第12話
第12話
きっと顔をほころばせて「旨いじゃないか」と言ってくれると信じている
『新スーパーニッカ』はボトルの素材やデザイン、容量も国際規格の750㎖に設定した。長年貯蔵した原酒とカフェグレーンをブレンド。仙台工場の完成によって原酒の生産が増えたため余市蒸溜所の原酒もふんだんに使うことが出来るようになったためであった。
カフェ式蒸溜機は政孝親父と私が一緒にスコットランドまで行って、グラスゴーの機械メーカー、ブレアーズ社で購入したものだった。型は伝統的な四角型と丸型があったが、先方は政孝親父の気性を心得ていて「(竹鶴さんは)四角いほうを選ぶでしょう」と言い、こちらも最初からそのつもりだったので、四角いタイプのものを選んで西宮(現在は宮城峡蒸溜所に移転)に設置したのである。スコットランドからカフェ式蒸溜機の技術者を呼び寄せて3ヶ月間、使用方法などの指導を受け、カフェグレーンの製造が始まった。カフェ式蒸溜機でつくられたグレーンウイスキーは香味成分を残すのが大変難しい。塔数が多ければ精製機能は高くなり、その蒸溜液は純度が高い分、香りも味わいも薄いものになってしまう。ニッカウヰスキーのカフェ式蒸溜機はメーンが2塔しかないため、そのぶん香味成分の豊かな蒸溜液を得ることが出来る。その作業が微妙で難しい。試行錯誤を繰り返し、カフェグレーンウイスキーも徐々に増えていったのである。
西宮のカフェグレーンと宮城峡蒸溜所ができたお陰で『スーパーニッカ』に使用できる原酒が増えたのは喜ばしいことであった。しかしいきなり品質が変わるとお客様は違和感を感じてしまう。同じ銘柄のウイスキーを好んで飲んでいる方はなおさらである。品質は向上させたいが、すぐに変えてしまうのはかえって逆効果である。そのため長い歳月をかけて少しずつブレンドを変えていくのだが、この加減が難しい。一度ある製品に少しばかりスピードをあげたら、てきめんにクレームが来てしまった。人間の味覚というのは繊細で、だからこそつくる側の人間は神経を使う。同時にそれがウイスキーづくりの醍醐味でもあるのだ。
『スーパーニッカ』が誕生して40年。現在の中味は当初のブレンドとは違っているが、政孝親父が口にしたなら、きっと顔をほころばせて「旨いじゃないか」と言ってくれると信じている。貯蔵庫と研究室の往復の日々が懐かしく思い出される。ブレンドが完成したときの喜び、各務クリスタルで初めてスーパーニッカのボトルと対面したとき「これがいい!」とボトルを抱きしめて離さなかった政孝親父。40歳を迎えた『スーパーニッカ』を味わうと、いつも浮かんでくるのは政孝親父の顔、そして琥珀色の夢を支え続けたリタおふくろの優しい笑顔なのだ。