蒸溜所紹介

竹鶴の信念が選んだ、ニッカウヰスキーの原点。余市蒸溜所

「日本で本物のウイスキーをつくりたい。」大きな夢を抱いて単身スコットランドに渡り、本場のウイスキーづくりを学んだ竹鶴政孝。帰国した彼が多くの試練を経て1934年に自ら開いたニッカウヰスキー最初の蒸溜所、それが北海道・余市蒸溜所です。スコッチをお手本とした竹鶴は、スコットランドに似た気候風土の地を探し求めてこの地に辿り着き、学んだウイスキーづくりを妥協なく再現しました。それから現在に至るまで、余市蒸溜所で働くすべての人々は竹鶴の想いを受け継ぎ、ウイスキーづくりに情熱を注いでいるのです。

熱い想いが守り抜く、世界でも稀有な石炭直火蒸溜。

竹鶴が余市蒸溜所で目指したのは、力強く重厚なモルトウイスキーづくり。そのために、彼は石炭直火蒸溜を採用しました。もろみを入れたポットスチルを石炭の火で熱するため、蒸溜釜は約800℃の高温にさらされ、もろみに適度な「焦げ」ができて香ばしくなります。ポットスチルは、下向きのラインアームを持つストレートヘッド型。蒸溜液に多くの成分が残るため、原酒に豊かな味わいを与えます。適切な火力を保つように石炭をくべるには熟練の職人の技が必要なため、今は石炭直火蒸溜を行う蒸溜所は世界でもごく稀ですが、余市モルトの個性はこの蒸溜方法あってこそ。竹鶴から受け継ぐ伝統の技を、私たちはこれからも守り抜いていきます。

北の風土が、重厚なモルト原酒をゆっくりと育む。

北に日本海を臨み、三方を美しい自然あふれる山々に囲まれた余市。四季を通じて寒冷な気候、豊かな水源、湿潤で澄んだ空気はスコットランドによく似ています。この気候風土が、力強く重厚なモルト原酒を育む条件です。厳しい冬の間に山々に降り積もった雪は、春の訪れとともに雪解け水となって余市川に注ぎ込みます。この清らかな流れが、余市モルトの仕込み水となります。蒸溜された原酒が樽で眠る間は、水蒸気をたっぷりと含んだ清涼な空気が乾燥から樽を守ります。原酒はゆっくりと熟成を重ねながら円熟味を増し、コク深く豊かな味わいと芳醇な香りを備えていきます。余市モルトの力強く重厚な個性は、伝統の蒸溜法と北の大自然によってもたらされるのです。

竹鶴の挑戦が、未来へつながる場所。宮城峡蒸溜所

北海道・余市蒸溜所がスタートして約30年後。竹鶴政孝は、余市とは異なる個性のモルトウイスキーづくりを目指し、次なる蒸溜所建設の地を探していました。数ある候補の中から選ばれたのが、杜の都・仙台の西にある緑の峡谷。広瀬川と新川(にっかわ)というふたつの清流に囲まれるこの地を初めて訪れた竹鶴は、新川の水で持っていたウイスキーを割って飲み、その場で蒸溜所建設を決めました。北国でありながら気候風土は穏やか、豊かな自然に恵まれたこの地で、竹鶴が目指した華やかでさわやかなモルトウイスキーが生まれています。

異なる個性のモルト原酒を求めて選んだ、蒸溜方法。

華やかな香りとやわらかでスムースな味わいを持つ宮城峡モルトをつくりあげるため、竹鶴はスチームによる間接蒸溜を選択しました。ポットスチルの内部にパイプをめぐらせ、約130℃の蒸気を通してじっくりと蒸溜する方法です。ポットスチルは上向きのラインアームを持ち、胴体に丸い膨らみのあるバルジ型。この形状により、蒸溜の間にポットスチルの内部に溜まった蒸気や香味成分は蒸溜釜に戻ることになります。何度もこの過程を繰り返す間にアルコール成分が凝縮され、原酒の香りと味わいが洗練されていくのです。あえて余市とは対極にある蒸溜方法を採用することにより生まれた、宮城峡モルトの個性。さまざまな工夫を重ねながら守り抜かれています。

みずみずしい自然に育まれる、華やかさとさわやかさ。

余市よりも年間の平均気温が2℃ほど高く、内陸部にあるため海の影響を受けにくい、穏やかな気候に恵まれた宮城峡蒸溜所。杜の都・仙台をうるおす広瀬川と、蔵王連峰を経て流れてくる新川に囲まれ、四季を通じて霧や靄に包まれています。冬の間は雪も多く、樹々から生まれるみずみずしい空気が樽の中で眠る原酒を守ります。仕込み水として使われているのは、やわらかな新川の伏流水。この水が、宮城峡モルトの個性をつくる上で重要な役割を果たしているのです。竹鶴はこの豊かな自然に敬意を表し、蒸溜所建設の際も本来の地形や森林を最大限に守りました。自然との共生と調和の精神は、宮城峡モルトの香りと味わいの中に生きています。
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