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No.11 余市モルトとスモーキーフレーバー。

ウイスキーの特長のひとつである「スモーキーフレーバー」。これは、原料の大麦を発芽させた後、水分を含んだ麦芽(モルト)を乾燥させるときに燃やすピート(草炭)の煙に由来します。竹鶴政孝は、スコットランド留学時にそれを学び、“「スコッチウヰスキー」独有の芳香を加味する”、“最も重要なる燃料「ピイト」”と「竹鶴ノート」に記しています。

しかし、時代とともに麦芽製造の効率化が進み、現在ではガスなどを熱源に熱風で乾燥させる製法が主流。ピートは麦芽乾燥のためよりも、主に香り付けのために焚き込むケースが多くなりました。異なる個性のウイスキーをつくるためにピートの焚き込み度合いを変えて、「ヘビーピートモルト」、「ライトピートモルト」などの麦芽が製造されています。また、ピートを焚き込まない「ノンピートモルト」もあります。

スモーキーフレーバーが強い「ヘビーピートモルト」と好相性なのが、余市蒸溜所伝統の蒸溜設備です。ポットスチルは、下向きのラインアームを持つストレートヘッド型。そして、「石炭直火蒸溜」。これらは、複雑な香味と独特の香ばしさをもたらし、力強い酒質の原酒を生み出します。「ヘビーピートモルト」の強い香りと「石炭直火蒸溜」による特性が相まって、極めて個性的な原酒ができあがるのです。

「余市のモルト原酒」=すべてが「スモーキー」「ピーティ」と思われがちですが、「ヘビーピートモルト」を使用したものは原酒の一部。余市では多くの「ライトピートモルト」、「ノンピートモルト」による原酒も製造しています。

その一方で、ヘビーピートタイプの個性ある原酒は、わずかな量であっても香味を決定づけるキーモルトのひとつとなり、ニッカのウイスキーづくりに大きな役割を果たしてきました。スモーキーフレーバーに富んだ香味は、余市の伝統のひとつであるといえるでしょう。

切り出されたピート
余市蒸溜所のポットスチル