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「一人でも多くの日本人に、本物のウイスキーを飲んでもらいたい」。熱い想いを抱き1918年に単身スコットランドへ渡り、不屈の精神でウイスキーづくりを学んだ竹鶴政孝。余市蒸溜所は、ウイスキーづくりの理想郷を求めた竹鶴がひらいたニッカウヰスキー初の蒸溜所です。
学んだウイスキーづくりを一切の妥協なく再現するため、スコットランドに似た気候と自然環境を求めた竹鶴が数多くの候補地の中から選んだのが、北の大地。小樽の西、積丹半島の付根に位置する余市だったのです。
竹鶴政孝を駆り立てたウイスキーへの愛と情熱は、余市蒸溜所開設から80余年の時を経た今に至るまで、脈々と受け継がれてきました。その象徴とも言えるのが、石炭直火蒸溜。竹鶴が修行したハイランドのロングモーン蒸溜所にならって採用した製法ですが、適切な火力が保たれるように石炭をくべ続けるには熟練の職人の技が必要。そのため、現在は世界でも希少な蒸溜法です。
理想のウイスキーをつくるために必要なことは、非効率的であっても守り抜いていく。高い志を持ち、技を磨いて真摯にウイスキーづくりに取り組む。それが今もこれからも変わらない、ニッカウヰスキーの姿勢なのです。
竹鶴政孝は余市でウイスキーづくりを始めるにあたり、ビール樽づくりで熟練の腕を持つ樽職人を招きました。初めてウイスキー樽に挑戦した職人は研究を重ね、程なく竹鶴が認める高品質なウイスキー樽をつくりあげました。これがニッカウヰスキーの製樽技術の礎です。
樽はほとんど手作業によってつくられる上に原料となる樽材にはひとつとして同じものはないため、職人は師匠に付いて技術を習得します。竹鶴は樽職人に「僕はいいウイスキーをつくる。君たちはいい樽をつくってくれ」と声をかけたと言います。歴代の職人たちによって磨き抜かれた技術は、さらに後人へと受け継がれていくのです。
竹鶴政孝がこだわったのは、本場スコットランドで学んだウイスキーづくりを一切の妥協を許さず再現すること。そのためにはスコットランドに似た冷涼で湿潤な気候、豊かな水源と澄んだ空気がそろった場所が必要でした。
日本各地を巡り探し求めた末に竹鶴が辿り着いたのが、ここ北海道・余市。当時の余市は民家もほとんどなく、ただ雑草と土塊に覆われた湿原が続く寂しい土地でしたが、竹鶴の目はこの海風が吹く原野こそウイスキーづくりに理想的な場所であると見抜いたのです。
出資者を募った竹鶴は1934年、ニッカウヰスキーの前身である大日本果汁株式会社を余市に設立。妻・リタを工場敷地内の木造洋風家屋に迎え入れて蒸溜所建設に取り組みました。2年後にはポットスチルの炉に石炭がくべられ、ウイスキーづくりの第一歩が刻まれたのです。
しかし、ウイスキーは蒸溜してすぐ販売できるものではありません。原酒が熟成して出荷できるようになるまで、竹鶴は地元特産のりんごを搾ってジュースとして販売し運転資金の足しにしました。「大日本果汁」、後に「ニッカ」となる社名は、このりんご果汁にちなんだものです。ジュースだけでなくゼリーやワイン、ブランデーなど、りんごは数々の商品となって黎明期の経営を支えました。
さまざまな苦難を乗り越え、遂にニッカウヰスキー第一号が世に出たのは、1940年のこと。スコットランド留学から22年目の秋のことでした。
竹鶴政孝が余市蒸溜所に託した役割は、重厚で力強いコクのあるモルト原酒をつくること。そこで採用したのが、自ら学んだスコットランドのロングモーン蒸溜所と同じ石炭直火蒸溜です。
蒸溜の際に使われるポットスチルは、下向きのラインアームを持つストレートヘッド型。アルコール以外のさまざまな成分を残しながら蒸溜が進むため、原酒に複雑で豊かな味わいを与えます。底部は1000℃を超える高温になるポットスチルを、職人が絶妙なタイミングで石炭をくべ入れ、適度な「焦げ」ができることで独特の香ばしさが生まれます。
余市は北に日本海を臨み、三方を豊かな自然あふれる山々に囲まれた地。厳しい冬の間に標高約1,500mの余市岳を始めとする山々に降り積もった雪は、春の訪れとともに雪解け水となって余市川に注ぎ込みます。鮎が泳ぎ鮭が遡上するこの豊かな清流が、原酒の仕込み水になるのです。モルトウイスキーの原料である大麦も豊富で、石狩平野では麦芽にスモーキーな香りをつけるピート(草炭)や石炭も採掘できました。
四季を通じて寒冷な余市の気候は、ウイスキーの熟成にも適しています。わずかに潮の香りを含む湿潤で澄んだ空気が樽を乾燥から守り、芳醇な香りを封じ込めます。
厳しくも豊かな大自然に包まれた北の海辺は、竹鶴が目指した力強い原酒を育む地として理想的な条件を備えているのです。
石炭直火蒸溜でつくられる余市モルトは、竹鶴政孝が目指した通り力強く重厚。何にも負けないコクがあり、木の個性が強く出る新樽に詰めて熟成させても、新樽特有のウッディな香りやバニラの香りを備えながら、本来の重厚さを失わない味わいになります。グレーンウイスキーや複数のモルトを組み合わせても余市モルトが基幹となり、深みのある豊かな味わいのウイスキーをつくり出すことができるのです。
「余市モルトには潮の香りがする」とも言われます。石狩湾から吹く海風のフレーバーを樽が吸収し、熟成の間に原酒に溶け込んでいるのかもしれません。ヘビーピートタイプのモルト原酒も、余市蒸溜所で伝統的につくられてきました。
2001年、「シングルカスク余市10年」が日本のウイスキーとして初めてWhisky Magazineの「Best of the Best」総合第1位を獲得。その後も数々の世界的な賞に輝いています。余市モルトの個性は、世界中の多くのウイスキーファンに愛されつづけているのです。